毎年お世話になっている歯科医に「ア歯科」があります。約20年前、近所の良い歯医者を捜していたところ、評判も良さそうだと聞きました。「面白い名前をつけたものだな。一文字だ。しかも最初の一文字だ。」と思いながら、通い始めた記憶があります。それまでは、歯医者にほとんど用事がなかったのですが、40代半ば頃に、勤務先で歯の検査をしたところ、歯槽膿漏(しそうのうろう)であると言われました。「こんなに良い歯を、長い間ほったらかしにしてはいかん。年に一度は歯科医に行きなさい!」と厳しく指導され、歯医者を捜していたのです。
その頃は、分厚い電話帳が配られていた時代で、何か調べるといえば、電話帳をめくったことを思い出します。ですから、電話帳の最初に来ることを考えたのかな?と思ったりもしました。こんな名前をつけている歯科院長はといえば、当時としては良い意味で、ユニークな面白い方だと思いました。(今は当たり前かもしれません)すなわち、歯磨きを徹底させるとか、あまり費用をかけないで治療をするとか、歯のクリーニングをしっかりさせて一生使える自分の歯を残していこう、という事に力を注いでいる歯科院長です。娘が年に1-2回ほど帰国しますと、この医者にお世話になります。なにしろ、海外の歯の治療は高いものですから。そのとき、この歯科院長は、帰国滞在日数内で、治療をうまく終わらせてくれるのです。
ユニークな商号
先日、本棚を見て「読むくすり」(上前淳一郎著、文春文庫)という本を手に取りました。前々から、読み返すと面白いだろうなと何となく気になっていた本です。シリーズで10数冊以上も出ている本ですが、そのうちの1冊を十数年ぶりかに読み返してみますと、「あ」と「ん」いうテーマで書いてある記事がありました。そこには、こんな内容のことが書いてありました。
東京23区の企業名電話帳のページをめくってみると、平仮名で一字だけの店は、「あ」は1軒だけで「ん」は4件もある由。喫茶店「あ」の店と印刷会社「ん」を紹介している。どちらにしても、電話をかけて来たり、店先に来たりしたお客は、不思議に思うようだ。最初に電話番号登録のため電話局に行き、屋号を記入した書類を窓口で渡したら言われた。「店の頭文字『あ』だけを書いてもダメだよ。全部記入してください。」株式会社『ん』の商号登録に登記所へ行ったら、係員が変な顔をして受け付けてくれない。1日待たされ、登記所は会議をして、やっとOKになった。このユニークな名前は、商売繁盛になったようだ。
インターネットで株式会社「ん」を検索したところ、印刷会社はもうないのでしょうか、違うお店でした。
西村長ばあさんのこと

この秋の連休を利用して、岡山の故郷に帰ってきました。例年の秋と比較するとまだ夏日(25℃以上)があったりして、誠に暑い秋でした。私の母の実家が、岡山県の北部・鏡野町にあります。まさに旧家でして、家も古ければ住んでいる人間様もまた古いことは言うまでもありません。米寿(88歳)のお祝いを兼ねて訪問です。周りの家は、すべて建て直して新しくなっていますが、実家だけは、建て直しの費用がかかりすぎて出来ず、門はすでに150年余です。
私の母の母(祖母になる)に、西村長(ちょう)と言う人がいました。この西村家の家業(造り酒屋)の2代目です。彼女は、結婚してまもなく夫が27歳でなくなり、その後、この家業を引き継ぎ、女ひとりで子供を育て(女の子2人)、奉公人を世話しながら(多い時は10人位?)家業を切り盛りしたのです。2代目として活躍したのは、今から70年以上も前・戦前の話です。私も幼いときに、実家の縁側でしばしば将棋をしながら遊んでもらった記憶があります。明るくて、肝っ玉が太くて人徳もあり、“ほんとに良く出来た長ばあさん”だったと、彼女を知る人たちの一致した意見です。テレビドラマの主人公にでもすれば面白そうな人で、その個性が光っているのです。私の母の評によれば、“長ばあさん”を褒める言葉があふれ出ます。
その後の3代目、4代目、5代目を見てみると、その連れ合いを含めて、どう見てもユニークだなといわざるを得ません。一人ひとりが、実に個性にあふれている一族なのです。なぜ、こうなるのでしょうか?この一族の歴史を、このときに少し時間をかけて聴きながら、誰しもその人の個性そのままに生き抜いたのだなとわかり、そんな家風があったのだなと感じました。良い家風の大切さを思いました。
私たち一人ひとりは、実にユニークに造られました。私というものは、人類始まってから今日までそして今後も、同じ人間は決して存在しません。それほどにユニークであるに違いないのに、そのユニークな輝きをとかくすると失ってしまいがちです。ですから、自分に与えられた賜物を意識して

「あなたがたは、それぞれ違った賜物を頂いているのですから、それを下さった神の良い管理者として、その賜物を使い、お互いに仕え合いなさい。」(ペテロⅠ 4:10)
2010年10月15日 小坂圭吾